それでも楽しい農業ライフ

実体験をもとに小説風に書いてます

1・終わり

2021年12月某日、その男は少しいきり立っていた。

「もう、無理です。我慢の限界です。

俺は会社を辞めます。」

会議室には社長と総務とそして自分が居た。

今までも何回か同じような場面があった。

しかし、今回は気の迷いではなく本気の退職だ。

 

37歳という年齢で17年務めた会社を辞めることにした。

会社では名ばかりではあるが係長のポジションにいた。

給料は低くもないが高くもない、残業をせざるを得ない状況で残業代が出ているから少しは金銭的には余裕がある。

単純に会社が嫌になったとか、嫌いな奴がいる、それも事実だ。

だが理由はそれだけではない。

ここにきて色んなことが一気に押し寄せてきて心身ともに限界を迎えてしまったのだ。

別記・絶望

 

引き留められたが断り、少しばかり揉めたが、最終的には退職が決まった。

引継ぎの関係もあるので3月20日までは在籍するという条件付きだ。

3か月のうちに引き継いで次の就職先を探す。

普通であれば就職先を見つけてから退職が一般的かもしれないが関係なかった。

とにかく今の状況から離れたい、人生を変えたい、楽しみたい、その一心だった。

 

役員、役職者には裏でいろいろ言われてたみたいだが、仲の良い同僚や頼ってくれる後輩もいたので、その3か月は会社のためというより、そいつらのためだ。

 

さて、いざ転職をと考えるとまずは職種だ。

勤務地はこの長野県松本市を中心に探すことは決めていた。

同じ職種とも少し思ったが、高校から数えると人生の半分以上を製造業で過ごしてきた。また製造業を選んでも同じ結果になるのではないかと選択肢から削除した。

やったことのない職種で自分が興味や得意を生かせるものは・・・。

人と接することが決して得意ではない性格、緊張しい性格でもあるので接客や営業も難しい。

 

身体を動かすことは好きで学生時代はバレーボールをしていた。

今はジムにも通っている。筋トレも好きだ。

だがパーソナルトレーナーやジムのスタッフも面白そうだが直感的に違うなと思った。

 

小さい頃はガンダムが好きでプラモデルを良く作っていた。

ジグソーパズルや木工細工もよくやった。

そういえば中学の時は手芸クラブや物作りクラブという少しかわったクラブも選択していた。

料理も自分でよく作る、昼飯は自分で作って持っていく。

趣味で家庭菜園もしている。塩尻のじいちゃんの家の横にある小さな畑だが景色のいいところで田舎ではあるが気に入っている。今は叔父が一人で住んでいる。

よくよく考えれば昔から何かを作ることは好きだった。

 

ふと、農家が頭に浮かんだ。

畑にいると自然と触れ合っているのも大きいかもしれないが、心が穏やかになれる。

嫌なことも忘れられる。そんな時間が流れる。

 

しかし、そんな都合よく農業の求人が出ているだろうか?

まあ、候補の一つにしておくかと、この時はそんな軽い気持ちでいた。